ウィメンズクリニック神野

体内PFAS (有機フッ素化合物) 濃度と生殖補助医療成績との関連に関する研究

(京都大学のPFAS研究:「環境リスク評価にむけてのヒト曝露長期モニタリングのための試料バンク創設に関する研究」に追加参加することによる共同研究)

研究責任者:神野正雄
       ウィメンズクリニック神野 院長


共同研究者:原田浩二
       京都大学大学院医学研究科  社会健康医学系専攻環境衛生学分野 准教授

(1) 背景と目的
 近年、PFAS(有機フッ素化合物)による地下水汚染が日本全国で徐々に明らかとなってきています。当院に通院する患者さんの多くが居住する東京都多摩地域もPFAS汚染が示され1)、 さらに多摩地域住民の血漿中PFAS濃度が高いことも示されました2)。 PFASの体内蓄積は、免疫異常, 脂質代謝異常, 腎臓癌, 甲状腺機能異常, 低出生体重児の発生と関連することが知られていますが、最近、妊孕性低下との関連も示されました3)。 当院では、ここ10年間、卵巣体積が小さくかつ抗ミュラー氏管ホルモン(AMH)低値の20代初診患者さんが明らかに増加しています。これは、卵巣に貯蔵されている原始卵胞数が減少している“卵巣予備力低下(DOR)”の病態が、若年女性で急増していることを意味します。
 以上の状況から、体内PFAS蓄積が卵子破壊を起こし、よってDORが急増した可能性を考えました。そこで本研究は、生殖補助医療(体外受精や顕微授精など)を受けない方を含め、すべての研究参加者の方で、AMHを含む不妊ホルモン検査との相関を解析し、PFASとDORの関連を検討いたします。また、当院で生殖補助医療を受ける研究参加者の方においては、血中および卵胞液中PFAS値を測定し、体内PFAS値と生殖補助医療成績(受精, 胚発育, 着床, および妊娠)との関連を解析し、PFAS蓄積が妊娠能力低下と関連するかも検討いたします。
 DORは生殖補助医療を用いても最も難治の不妊原因であり、DORの急増は、我が国の少子化をさらに深刻化する重大な問題であります。本研究によりPFASがDORおよび妊娠能力低下と関連することが明らかとなるなら、PFAS低下によるDOR治療やPFAS蓄積防止による不妊予防などの展開が期待できます。我が国の少子化問題を鑑みるに、本研究の遂行は急務と考えます。

(2) 研究参加の条件
 以下の3つの条件を満たし、説明のうえ同意が得られた方が、研究に参加できます。(1) 40歳未満の不妊症である、(2) 生殖補助医療を受ける可能性がある、そして (3) 糖尿病や脂質異常の治療をしていない。ただし器質的子宮性不妊(子宮奇形、Asherman症候群、等)の方と 御主人が非閉塞性無精子症の方は、残念ながら参加できません。

(3) 方法
 説明を聞き、研究に参加を希望する方は、同意書に署名捺印します。まず、主たる居住地、水道水, 浄水器, 飲料水購入の使用頻度、などに関して、アンケート用紙に記入します。そしてPFAS, 等の測定のために採血をします。当院で生殖補助医療を受ける方は、その後、当院での通常の生殖補助医療を受けます。採卵のとき、卵回収後の卵胞液を通常は廃棄するのですが、これを廃棄せずに回収し、後日のPFAS, 等の測定のために凍結保存します。
 凍結保存した血液および卵胞液は、参加者が約30名集まるたびに順次、京都大学環境衛生学教室に送り、PFASを測定してもらいます。そのためPFASの測定結果はすぐには得られません。少なくとも数か月以上がかかると考えられます。
 血液および卵胞液の一部は、参加者さんの同意に基づき、京都大学の「環境リスク評価にむけてのヒト曝露長期モニタリングのための試料バンク」に供与されるか、または廃棄されます。

(4) 費用
 PFAS測定およびそのための採血は、無料です。不妊検査、不妊治療、および生殖補助医療に関しては有料です(保険適応の方は、保険診療も可能です)。

(5) 個人情報の保護
 本研究で得られた個々のデーターは解析に提供され、その解析結果は論文, 学会発表, 新聞, ニュースなどで公表される可能性がありますが、その際常に、あらゆる個人情報は完全に保護されて公開されません。

(6) 研究参加の手順
 外来に受診予約をお取りいただき、来院のうえ御相談ください。



文献
1.都水道局HP, 都環境局HP, 都福祉保健局内部資料・2005-22の検査結果.
2.原田浩二: 多摩地域住民の血漿中PFAS濃度調査の結果の統計学的解析結果について. 「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」での発表資料. 2023年6月8日
3.Wang W, Hong X, Zhao F, et al. : The effects of perfluoroalkyl and polyfluoroalkyl substances on female fertility: A systematic review and meta-analysis. Environmental Research 216, 2023. https://doi.org/10.1016/j.envres.2022.114718